本報告は,下記の論文報告から抜粋・編集したものである。

https://soar-ir.repo.nii.ac.jp/records/2001392

1.はじめに

(1)学習の概要

名古屋市立東星中学校では,信州大学教育学部・NPO法人DoChubuと連携して防災学習を実施した。令和4年度前期図書委員生徒および生徒会役員生徒を対象に,図書委員会・生徒会活動のコラボ企画としてICTを活用した「防災マップ」作りを行った。学習支援アプリ「フィールドオン」を使って学区域の地震・土砂災害に対して危ない場所,資源として使えるもの・場所をフィールドワークによって発見・記録し,その成果を全校および地域のスポーツセンターに掲示した。学習は中学校1~3年生の合計32名が,クラス別縦割りで6班に分かれて取り組んだ。各班は,図書委員会の1~3年生2名ずつから縦割りで構成され,生徒会長および生徒会執行委員も加わった。

(2)学校の立地と災害リスク

名古屋市立東星中学校は愛知県名古屋市千種区に立地し,名古屋市のハザードマップによると学区域では地震の揺れは最大震度6弱程度が想定されており,液状化可能性の高い場所や土砂災害危険箇所等が含まれる。

2.学校の立地と災害リスク

学習の周知,趣旨説明,アプリの練習,フィールドワーク,成果発信について,令和4年度前期図書委員会活動(全4回)のなかで行った。実施の概要は表1のとおりである。

日程委員会学習内容場所
14/20(水)第1回委員会学習の周知  図書室
25/11(水) 15時15分~ 16時第2回委員会本実践の意義について趣旨説明 10分(信州大学教育学部 廣内教授より) ・本実践の目的・目標 ・災害時における中学生の役割 アプリ使用方法説明 10分(NPO法人DoChubu落合様より) ・アプリの設定,使い方の確認 校内でアプリの練習 25分 ・4階の廊下および多目的スペース等で練習図書室
37/5(火)15時15分~ 16時第3回委員会① フィールドワーク実施 20分 ・地震・土砂災害に対する危険・資源の観点で調査(危ない場所,資源として使えるもの・場所を発見する) ② グループごとにふりかえり 25分
・データの登録・直し方の学習
・自分たちが何をポイントにフィールドワークしてきたかを発表する
図書室 および学校周辺
家庭学習  追加フィールドワーク ・夏休み期間を活用してフィールドワークを追加で行い,各自で防災にかかわるデータを入力していく各家庭 および学校周辺
49/5(月) 15時15分~ 16時第4回委員会フィールドワーク成果まとめ,防災マップの作成 ・全校生徒・地域向けの防災マップを作成する ・調査内容とハザードマップを比較する ・地域の防災についての課題を発見する図書室
表1 実施概要

 フィールドワークでは,生徒自身の身近な地域で起こりうる災害時の危険性について目を向け,災害時の行動や防災のあり方について考えるために生徒自身が情報収集を行った。実際にアプリを使って学区域の地震・土砂災害に対して危ない場所,資源として使えるもの・場所を発見し記録を行った(図1)。また本実践では限られた委員会活動を活用するため,夏休み期間の家庭学習も併用して追加でフィールドワークを行い,各自で自宅周辺の写真を撮影するなど調査を進めていった。

図1 フィールドワークの様子

 夏休み明けの4時限目に各自の情報を集約してフィールドワークの成果をまとめ,各自気付いた点を発表したほか,各班で協働して「東星中学校防災マップ」を完成させた。完成した防災マップは図書委員会の「図書だより」に掲載して全校生徒に配付した(図2)。さらに防災マップを校内(階段前と図書室壁の2箇所)に掲示し,常に目に触れるようにして全校生徒の防災意識向上に努めた。全校生徒にわかりやすく情報を伝えるために,作成したマップだけでなく学校図書館に所蔵の防災関連本をコピーしてクイズを作成・掲示するなどの生徒のアイディアが見られた。加えて地域住民への成果発信として,令和4年11月1日~8日の期間で,学校近くの公共施設「千種スポーツセンター」に防災マップを掲示した(図3)。

図3 千種スポーツセンターに掲示された防災マップとその説明

3.生徒の反応

 「災害時に危険なところや身を守るためにできそうな行動について少しでも学べた」(2年生男子),「防災マップ作りを通して自分の住む街について知ることができ,安全について考え直すことができてよかった」(3年生女子)という感想から,防災意識についても向上した様子もみられた。また生徒会・委員会活動の時間を活用したことから「自主的に調べ皆で活動できたのが良い経験だった。防災に対する意識も変わった」(3年生女子)といった意見も見られ,通常の授業とは異なり学年を超えた活動が展開できたことに充実感を感じた生徒もいた。

4.おわりに

 時間的制約が大きく防災学習のためにまとまった時間を確保することが難しい中学校において,本実践ではICTおよび夏休み期間の家庭学習を活用したことで,防災学習を効率的に実施することが出来た。また,特別活動のうち生徒会・委員会活動の時間を活用したことで,情報の受け取り・発信の場である学校図書館機能を活かした学習ができた。さらに生徒同士で学年横断的に交流し学びを深める全校での取り組みとなった。このことは,学校を代表して全校生徒や地域住民に向けて成果発信したことにつながった。