1.はじめに

 長野市立松代小学校は児童数316名、学級数15、長野市東部にある松代地区の中心部に位置している。松代地区は、松代城を中心に広がる城下町である。

 令和元年(2019年)の台風19号『猪の満水』では、松代地区もかなり広い地域が浸水した。地区の東側を流れ千曲川に流れ込む神田川は、松代小学校校庭のすぐ脇で越水し町内に流れ込んだ。小学校校舎は床上浸水を免れたものの、地区の西側の蛭川も越水したため、地区内は広い範囲で床上浸水し、深いところでは2m近くもの深さまで浸水したという。

 小学校4年生(学年児童数56名)の子どもたちは災害時には3歳程度で、多くの児童は当時の記憶があまり無いが、被害にあった家庭も多かったようである。

 そこで、一年間をかけて防災について学習していく中で、わたしたちのまち・松代の防災を考えていくことにした。

”猪の満水”災害デジタルアーカイブより

2.学習の概要

テーマ:「わたしたちのまち、松代の防災を考える~過去から学び、未来に備える~」

 児童は以下の活動を行った

  • 過去の災害を知る:紙芝居で令和元年台風19号の浸水被害を学習
    • 9月9日、復興応援実行委員の方々が作成した浸水被害の紙芝居を見せていただき、被害の実際を知った。
    • 『猪の満水災害デジタルアーカイブ』などを使い、自分たちのまちにどのくらいの被害があったのかを知った。
    • 松代小学校でも、子どもたちにも親しみの深い校庭脇の神田川から越水した大量の水の通り道となり、特に校庭は長い間使うことができず、自衛隊の方に整備をしていただいて使えるようになったことを知った。
  • 避難の重要性を体験:VRで避難ルートを疑似体験し、避難のタイミングを理解
    • 10月1日、国立研究法人土木研究所の傳田先生によるVRでの避難行動をiPad上で体験させていただいた。
    • 若い人や高齢者の立場になった避難を疑似避難を体験することにより、避難行動をできるだけ早く始めること、やみくもに行動するのではなく水についてしまう可能性のある場所を知っておくこと、そこから離れるように避難することなどを理解することができた。
  • 地域の危険個所調査:街歩きで危険個所を“Field ON”にまとめ、防災マップを作成。
    • 10月7日、地域の方々、内山先生、信州大学の学生さんたちにも協力していただき、少人数グループで自分の通学路を中心にまち歩きをしながら、危険個所などを写真に撮り、防災マップを作成した。“Field ON”の利用。
    • まち歩きの際には、実際に被害にあわれた方や避難誘導に携わった地域の方に直接お話をお聞きする機会となり、実際の被害をその場で詳しくお話しいただいた。
    • 地域の地図に反映された各班が撮影してきた写真を発表し、皆で共有しあうことで、浸水の恐れや地震の倒壊の恐れのある場所をよくしておくことが、地域の災害の被害を少なくすることにつながることを認識することができた。
  • 家庭での防災対策:非常持ち出し袋の確認、ハザードマップを活用しての避難ルートの検討
    • 10月中旬、各家庭での防災対策について、家族と話し合った。
    • ハザードマップを活用して、自宅周辺の浸水リスクを把握し、避難場所を検討したり、避難ルートを確認したりした。いざという時にどのように避難をするのか、連絡手段をどうするのかなどを話し合った。
    • 非常持ち出し袋や非常食、避難準備などの状況についても確認した。家族が3日ほど過ごせるくらいの食料はどのくらいになるのかを考え合った。
  • マイタイムラインの作成:災害時の行動順序の整理
    • 10月下旬、家庭で話し合ってきたことをもとに、災害時の行動順序を考えた。様々な災害の想定の中で、避難の準備や行動のタイミングなどを個々で考えた。
    • それぞれの家庭の家族構成や、自宅の場所などによっても避難場所や避難行動には違いが出てくることがわかってきた。
  • 避難時・災害時の食料の確保:袋調理の実践
    • 12月12日、保護者でもあり実際に災害時に避難所開設などのボランティアに携わった方の指導の下で学習した。
    • 災害時には、食料は限られる。また、確保できている水(生活水・飲料水)にも限りがある。衛生面で普段とは違う環境であること、食器を後で洗うことが難しいなどの想定における調理を考え体験した。
    • 袋の中でお米と水・ホットケーキミックスと水などを組み合わせたものを湯煎調理してみる体験活動をした。使用する水を極力減らし、衛生的に安全に食べられる食料確保の方法を教えていただいた。

3.学習の成果及び今後の課題

 “Field ON”を活用することにより、地域の危険個所を地図上に表すことができ、地域の防災に係る地点を可視化共有できた。また、アーカイブサイトの地図上の写真を見返すことで、自分たちの感じた危険度を実際の浸水被害と重ねて考えることができた。アーカイブサイトのように資料を積み重ねておいていただくことは子どもたちの学習の深まりにも生きている。

 “猪の満水”について学習を深めていく中で、地域の方々の協力をお願いしてきた。地域の災害・防災についての知見のある方と学校の新たなつながりが生まれた。今後も協力していただくことは非常に心強い。

 本年度、本校は文武学校の創立から歴史をつなぎ170周年を迎えた。その記念式典では、それぞれの学年が松代地域について学習してきたことを発表する機会があり、4学年では、防災学習で学んできたことを発表することができた。その発表の機会があるということが、学習をより深めることにつながった。また、防災学習について保護者の皆さんをはじめ、地域の方々にむけて広く発表することにより、発表を聞いてくださった皆さんに、いつもの生活の中に防災について意識していただく機会となったことと思われる。そのことは、学習を続けてきた4学年児童の防災意識の高まりだけでなく、地域全体の更なる防災意識の高まりとなっているのではないかと感じる。防災を子どもたちが学習するだけでなく、積極的に地域に発信していくことが地域の防災意識の向上を図ることにつながり、大切な視点であると思う。

4.まとめ

 “猪の満水”という大きな災害が地域で起きたこともあり、災害を実際に経験した家庭も多く、地域で被害にあわれた家庭も多いこともあり、学習の生きた材料が多い地域である。また、その災害から復興するために立ち上がった復興応援実行委員会など、いくつものボランティア団体の活動も数年経った今でも活発であり続け、防災意識の高い地区であることもあり、学習を実践するにあたり快く協力してくださる地域の方々が多く、非常に深い学習をすることができた。

 袋調理の実習の時には、ペットボトルの水を多く確保できていたグループが、水が足りなくなりそうな隣のグループに提供する姿があった。もらったグループは感謝の意を伝え、提供したグループも恩を着せるわけでもなく、両者とも普段の生活とは違い、災害時にどのように動けるのかが表れた姿が見られた。災害時の自助・共助を具現できた姿ではないかと感じている。このような活動を続けていくことにより「自分の命は自分で守る」だけでなく、「みんなで助け合う」へと昇華していけるのではないかと考える。

 小学校4年生では、社会科や国語科の時間に防災について考える単元があるので、それらと絡めながら防災学習を進めることが可能である。毎年継続して、4学年が松代の防災について学習するということになれば、将来的に更に防災意識の高い地域を形成できるのではないかと考えている。

(文責  安全防災教育主任・4学年主任  布谷 孝浩)