1.はじめに

 小谷村は、長野県の北部に位置する山に囲まれたのどかな村で、人口も約3000人と小さな村だが、塩の道として古くから街道が整備され大勢の旅人が行き来した歴史ある場所でもある。1年を通してトレッキングやスキーなど自然を楽しむ観光客が多く訪れたり、山菜や雪中キャベツなど気候をいかした特産物を多く生産していたりする一面もある。そんな小谷村だが、歴史を振り返ると定期的に自然災害に襲われてきた。約100年前には、「日本3大山崩れ」にも数えられる稗田山崩れが起こり、平成7年度豪雨では道が分断され孤立集落となってしまった。翌年平成8年には蒲原沢土石流災害も起こっている。今回取り上げる神城断層地震も幸い死者こそ出てはいないが、多くの家屋が倒壊し、今まで住んでいた場所を離れざるをえない方も多かった。小谷村の人々の生活は、多くの自然の恵みをいただいている反面、自然災害との闘いの歴史とも言えるかもしれない。

2.学習について

 小谷村立小谷小学校は、全校児童98人の小規模校である。19年前3つの小学校が合併してできた一村一校の小学校でもある。今回学習に取り組んだのは5年生17名。総合学習の一つの柱である「防災を通して小谷を分析しよう」という学習の一環で行った。神城断層地震発生から10年という節目の年であり、5年生がちょうど生まれた年に起きた災害ということもあり題材として設定した。

3.神城断層地震について

 2014年11月22日の22時8分。M6.7震度6弱の地震が起きた。小谷村では幸い死者は出なかったが、建物の被害が、全壊33棟、半壊79棟、一部損壊223棟、非住宅被害87棟だった。特に中土地区に被害が集中しており、今現在も傷跡が残っている。

4.学習の流れ

①神城断層地震の概要確認・大人へのインタビュー

②被害を受けた場所へのフィールドワーク

③村の防災体制について

④まとめ

5.防災学習の様子

①神城断層地震の概要確認・大人へのインタビュー

【インタビューより】

・今まで感じたことがない揺れで、命の危険を感じた。

・ベッドで横になっていた時に起こり、体が浮くような感覚があった。

・地震が起こる前に、ゴゴゴと地鳴りが起こった。

・すぐにお父さんが消防団の活動のために出動していって、交通整理などを行った。

・車中泊をして過ごした。   ・いとこの家に避難した。

・地区のみんなで食べ物や飲み物が足りているか聞き合ったり、分け合ったりした。

・かべがゆがんでドアが開かなくなったり、道路にヒビが入ったりもした。

・怖くてトイレに行けなくなった人もいた。

【地震体験車による震度6以上の地震体験】

『児童の感想』
・震度6以上の揺れを体験してみると、一生懸命テーブルにつかまっていても吹き飛ばされそうになり、地震体験車から落ちるかと思いました。
・地震体験車では家具がありませんでしたが、家ではたくさんの物が倒れてきてあぶないなと感じました。

②被害を受けた場所へのフィールドワーク

 神城断層地震の被害を知るために信州大学の廣内教授が取り組まれている震災アーカイブに掲載されている場所にフィールドワークに出かけた。神城断層地震を経験した方を二人講師にお招きして、当時の様子を教えていただいた。

『児童の感想』
・日吉神社のスパッと折れた鳥居の断面をみると地震が起きた後からでも、その恐ろしさを知ることができた。
・当時の様子と今を見比べてみて、家の数が減ってしまっていることがショックだった。
・玉泉寺では、大きな本堂も壊れる恐ろしい地震だということも実感しました。住んでいる人の願いによって復興が進むことも知りました。
・長崎集落では、集落のほとんどの家が壊れてしまい、家に支えをつけて生活に必要なものを持ち出したそうです。地震の影響もあり引っ越ししてしまい、今では一軒しか残っていませんでした。地震は起こったときだけでなく、その後の暮らしにも強い影響を与えるものだと感じました。

③村の防災体制について

 フィールドワークに出かけ肌で地震の大きさを感じ取ってきた児童たちは、苦しい中でもお互いに助け合いながら生活を送ったという避難所での生活体験を講師の方に聞き、避難所での生活について全く知らない自分たちに気が付き、村の防災体制について知りたいという願いをもった。そこで小谷村役場の防災担当の方に相談して学習会を開くこととなった。

【第1回学習会:小学校の防災設備について】(会場:小谷小学校)

1回目の学習会は小谷小学校で行った。通い慣れた小学校ではあるが、災害時は避難所として運用される。事前に提出してあった質問への回答から始まり、小学校の防災設備について説明いただいた。

『児童の感想』
・学校の設備は災害があった時、少しでも避難生活が楽になるようにといろいろな物があるという事が分かりました。
・期間が切れた水は、洗い物や手を洗う時に使う生活水にしたり、期間が切れそうな食べ物は地域の防災訓練の時等に食べたりしながら、無駄がでないようにしていることを知りました。いざというときに消費期限が切れたものを出さないように工夫していることがわかりました。

【第2回学習会:地域の防災設備について】(会場:中土観光交流センター「やまつばき」

2回目の学習会は中土観光交流センター「やまつばき」という村の指定避難所となっている施設で行った。2回目は、村の防災体制を教えてもらうだけでなく、避難所設営体験や避難者受け入れ体験も実施した。

『児童の感想』
・避難所に多くのものが備蓄されていることをしりました。これだけの備蓄品があるといつ災害が起きても安心して避難できると思いました。
・日頃から姉妹都市等地区と連携をとることで、災害があった時にたくさんの地域から支援に来てくれたことを知ることできました。
・避難所設営体験をして、落ち着いて行動することが大切だと感じました。その時になってみないとわからないことがあるので、わからないことは避難所の方にしっかり質問することが大切だと感じました。
・避難してきた人は、誘導してくれる人の言う事をしっかりと聞くことも大事だと感じました。

④まとめ

 まとめとしてこれまで学習してきたことをいかして防災タイムラインを作成することにした。警戒レベルごとの行動を担当する人と一緒に決めだしていった。タイムラインを作成するときに「家族みんなが安全に避難できる。」「家族で協力して避難ができる。」「だれがどんな作業をすれば効率がいいか。」などを考えながらまずは児童のみで決め出していった。できたタイムラインは持ち帰りおうちの人の意見も反映させながら完成させていった。

『児童の感想』
・家族と話し合い、いざという時に備えることができたと思います。避難をする時に安全に迷うこ
とがなく避難ができそうです。
・順序が決まっているから安心。 
・スムーズに避難できると思います。
・自分たちでも情報収集し行動していくことが大切だと思いました。

6.最後に

 この学習を通して児童たちは、過去災害が起こるたびに地域が一丸となって乗り越えてきたことを知ることができた。小さい村だからこそお互いに助け合い災害を乗り越えることの大切さを感じてきたように思う。だからこそ、いざというときに自分たちには何ができるだろうかと考えながら最終的に防災タイムラインを作成することができた。いざというときに冷静になって行動することは大人でも難しい。防災学習を通じて、日頃からの情報収集や準備の大切さを知った児童たちがそのいざというときに少しでも冷静に行動し、災害から身を守る行動ができるように学習を進めていきたいと思う。