地域概観

 長野市立清野小学校は、長野市南部の松代町内にあり、千曲川の右岸に位置する。学校及び学区のほぼ全体は、令和元年改訂の長野市洪水ハザードマップで10~20mの浸水予測が出されている。また、地域の南側には山が連なっているため、土砂災害警戒地域になっているところもある。この地域は水害常襲地域でもあり、過去には江戸時代の『戌の満水』(1742年)や昭和57年の台風18号災害で浸水被害を受けている。なお、戌の満水の際には、学区東端のやや小高くなった部分の上にある離山神社の境内に多くの人が避難したとの記録がある。
 学区内は、学校西側で千曲川堤防沿いに位置する1区(松代町岩野地区)、学校の南東で南側に山が連なる2区、学校東側で大部分は平地部の3区(ともに松代町清野地区)の3地区に分かれている。

ハザードマップで見た清野小学校区

学習の始まり

 今回の学習は、千曲川の洪水を想定した水害防災学習である。自分たちの住む地域がハザードマップで赤く塗られ、浸水想定区域となっていることを知った子どもたちが、周囲よりも高く安全な場所はどこなのか考えるところから始まった。

改定前のハザードマップ

学習のねらい

 千曲川で洪水が起こったときの危険性を知り、どこに避難すればよいのか危機感を抱いた子どもたちが、地域内の危険な箇所や安全な箇所を自分たちで歩き回りながら調べることを通して、有事の際にどのような行動をすればよいのか考えることができるようになる。

学習の展開

<1学期>

 子どもたちは社会科の学習との関連で長野市のハザードマップ(改訂前)を見た。その際、清野小学校周辺も0.5m未満ではあるが、浸水想定地域となっていることを知った。

<8月>

 担任が子どもたちに長野市のハザードマップが改訂されたことを伝え、見せた。新たなハザードマップでは、学校周辺だけでなく学区内のほぼ全域が真っ赤になっていた。子どもたちからは「やばい。」という声が上がった。

<9月>

 過去の洪水発生時のニュース映像や国土交通省公開の動画資料『洪水から身を守るには ~命を守るための3つのポイント~』を利用して、洪水発生時の状況や発生時の身の守り方などを学んだ。

<10月>

 初旬、ハザードマップを改めて確認し、万が一の場合にどのような行動をとればいいか考え始めた。「学校の3階なら…。」という考えも出されたため、ベランダから巻き尺を垂らして高さを計測してみた。およそ8mであることが分かり、想定される10m超の浸水が発生した場合に学校に残っていては危険であること知った。すると、子どもたちからは学校のすぐ西にある妻女山に避難すればよいという声が上がった。中には、「外に水が来ていなければ…。」と状況によって判断が変わることを踏まえた意見も出された。また、自宅にいた場合はどうするか、子どもたちに個々の考えを聞くと、自宅近くの山や神社、松代パーキングエリアといった場所が答えとして挙げられた。

 10日、地区ごと分かれ、自宅にいた場合の行動を考えた。2区の子どもたちは自宅裏の高い所、3区の子どもたちは離山神社や松代PAと、避難可能だと思われる場所を挙げていった。しかし、1区の子どもたちは妻女山や自宅近くの山などが出されるものの、車でなければ行くことは厳しかったり土砂崩れの心配があったりするなど、意見はまとまらなかった。そんな中、ある児童は「(逃げられる場所が)ない。」と不安げな表情でつぶやいた。

 12日、台風19号が上陸。千曲川も上流部で大雨が降ったことにより増水。本校でも多くの子どもたちが親戚宅や指定避難場所へ避難した。幸いにも清野小学校区では大きな被害はなかったが、後日寄せられた保護者の話により、大人よりも先に子どもが「逃げよう。」「物を2階へ。」などと言い始めた家庭があったことが分かった。

<11月>

 下記4名の協力を得て、タブレット端末とそこにインストールされた防災教育用アプリ(『フィールドオン』)を利用したフィールドワークに取り組み始めた。

<防災学習協力者の皆さま>

・廣内先生・・・信州大学教育学部教授

・落合さん・・・NPO法人ドゥチュウブ(アプリ関係)

・倉澤さん・・・信州大学教育学部付属次世代型学び研究開発センター(機器設定等)

・小林さん・・・信州大学教育学部学生(授業支援)

  14日、初めてのフィールドワークを実施。タブレット端末を2~3人ごとに1台持ち、クラス全体で避難場所として候補に挙がっている離山神社(3区)方面へ向かった。途中、子どもたちは道中に潜む危険個所や、万が一の際に自分たちの安全につながるかもしれない箇所を見つけ、アプリを利用して写真に収めたりコメントを残したりした。また、離山神社では上から見下ろすことやアプリに表示される標高を見ることで、避難に有効な高さがありそうなことを確認することができた 。

子どもが撮った写真とコメント

 15日、2度目のフィールドワークとして、2区方面へ向かった。水が流れることを意識して水路に目を向ける子どもが多い中、浸水により見えなくなった時の状況を考えて写真に撮る子どもも出始めた。また、土石流に関する警告板を見つけ、土砂災害も合わせて考えるようになった 。

下から見た離山神社

 21日、これまでに撮った写真やそこにつけたコメント、自分が危険(安全)だと思った理由を発表し合った。あるグループの発表では「見えなくなったら…。」という言葉がつけられた。それにより、浸水により見えなくなることで生じる危険(水路や段差、マンホールなど)がフィールドワークの視点として新たに加わった。

 28日、地区ごとに分かれてフィールドワークを行った。1区の子どもたちは危険な個所として、側溝の蓋が外れそうな場所、堤防へ続く道路(あふれたときに水の流れ道になるかもしれない)、歩道わきの段差などを記録した。また、妻女山へと上がっていく道では、タブレットでの位置情報をもとに、高速道路と同じくらいの高さのところまで上がるとハザードマップの想定浸水域から外れることに気付いた。2区の子どもたちは前回のフィールドワークでは行かなかった地区内にある池へ行った。一人の子どもが、台風の際に池の水が増水してあふれそうになっているのを見たからだそうだ。3区の子どもたちは離山神社へ行き、改めて高さを確認したり道路と周辺にある田畑との段差を確認したりした。

離山神社周辺での写真とコメント

<12月>

 4日、最後のフィールドワークとして、クラス全員で松代PAへ行った。一般道から敷地へ入ると、上り線側が高くなっていることが視界に入った。上り線と下り線のPAが並んでいるので、高さの違いも一目瞭然だった。下り線側から上り線側に上がってみた子どもたちは、その高さや広さを実感することができた。

松代PAでの写真とコメント
 松代PAで、低いところは浸水する心配があるけれども、階段を上った上り線のPAは浸水する心配がないということが分かりました。松代PAの階段を上った先はとても広くて、もし浸水しても、たくさんの人が避難できそうだなと思いました。また、下り線のPAは浸水の心配があったので、上に上がる前に浸水していたら危険だなと思いました。道路からPAの裏に入る入り口には水路があって、人が歩いてくるときは危険だなと思いました。そして、いろいろな所に段差があったので、見えなくなってつまずいて転んだり、深い段差で落ちてしまったりしたら危ないなと思いました。でも、ベンチや机などもあって、お年寄りの人などが座ることができるので、そこの部分はいいなと思いました。
 今日、総合で防災をやりました。今日は、松代PAに行きました。ぼくは、家からどれくらいで行けるかを考えました。『ぼくの家から松代PAは少し遠くて、時間がかかるかな。』と思いました。ぼくは、家族で会議をして災害の時にどこに避難するか話し合おうと思いました。

 フィールドワークを終え、子どもたちはWeb上で防災マップの修正を行った。2月に行う学習発表会を意識し、GPSによる位置情報のずれや写真に対するコメントをグループで相談し合いながら、より分かりやすく直した。また、発表内容を考える場面では、台風災害での事実を織り交ぜて発表しようと図書館やインターネットを活用して情報収集をしたり、伝えたい内容にふさわしい写真を選んだりする姿が多くみられた。

Googleマップで正確な位置を確認

<2月>

14日、学習発表会の中で家族に向けて今回の防災学習を通して学んだことや感じたことを発表した。防災マップや写真を見せながら、自分たちの住む地域に潜む危険箇所や安心な箇所、洪水だけではなく土砂災害にも意識を向けなければならないという地域の特色を伝えることができた。

終了後、保護者の方からは…

  • 地区を回って、想像力を働かせながら考えることができた。
  • いざというときにどうするのか、リアルに考えられた。
  • 台風のとき、「物を2階へ」と子どもが言った。学習が、家族のためにもなった。
  • いつもの道にも危険がある。それが再認識できた。

と感想が寄せられた。

学習発表会での発表

終わりに

 本来であれば、学習発表会の振り返りをもとに、発表内容をさらに練り上げて3学期の終業式で全校に向けて発表する予定であった。しかし、新型コロナウイルスの影響による休校で、残念ながら発表の場を持つことはできなかった。

  今回、子どもたちは高さをもとに安全だと思われる場所を見つけることができた。しかし、だから安心なわけではない。有事の際に適切な行動がとれるよう、今回の学習が生かされてほしい。

(文責 清野小学校 和田卓也)